「民泊用として物件を借りたい」という申し出があった際、多くの不動産管理会社様やオーナー様が躊躇される理由の一つが、居住用賃貸との実務手続きの相違点です。
「契約形態は普通借家でいいのか?使用するテンプレートは居住用か、事業用か?」
「賃料に消費税は課税されるのか?民泊に貸すことでこちらの負担が増えることはあるか?」
「消防法や建築基準法の適合性はどう確認するのか?」
そのようなお悩みを抱える事業者様がいらっしゃる通り、従来の居住用賃貸とは異なるルールが適用されるため、民泊テナントへの賃貸はあらかじめ正確な知識がないと難しい点があります。本記事では、不動産実務担当者が押さえておくべき、民泊賃貸における「税務・法律・契約」の重要ポイントを解説します。
目次
1. 【契約形態】「事業用賃貸借契約」になる
まず大前提として、民泊用途での賃貸は、借主がその場所で宿泊業を営むため、居住用ではなく「事業用」の扱いとなります。
普通借家契約のリスク
居住用と同様に「普通借家契約」を締結してしまうと、借地借家法による借主保護が強力に働き、正当事由がない限り貸主からの解約ができなくなります。将来的に「管理規約が変わって民泊が禁止になった」「近隣トラブルが多発して事業を停止させたい」という事態になっても、退去させられないリスクがあります。
定期借家契約の推奨
したがって、民泊賃貸においては「定期建物賃貸借契約(定期借家契約)」を締結するのが実務上のセオリーです。期間満了により確定的に契約が終了するため、オーナー側が主導権を持って物件の運用方針を見直すことが可能になります。
ただし、民泊用賃貸借においては普通借家契約を締結するオーナー様も多くいらっしゃるのが実情で、テナント側はもちろん普通借家契約を希望します。そのため、定借に対して難色を示された場合は、契約年数や短期解約違約金の条件を柔軟に交渉するのが望ましいと言えます。
2. 【リスクヘッジ】契約書に盛り込むべき「特約条項」文例
標準的な事業用契約書のひな形だけでは、民泊特有のリスクをカバーしきれません。特約事項に例えば以下の要素を盛り込み、責任の所在を明確にすることが不可欠です。
民泊賃貸における特約条項(例)
第○条(使用目的及び法令遵守)
乙(借主)は、本物件を住宅宿泊事業法、旅館業法、国家戦略特別区域法に基づく宿泊施設として使用するものとする。乙は、営業に必要な許認可を自己の責任と負担において取得・維持し、関係法令及び自治体の条例を遵守しなければならない。
第○条(近隣対応及び解約)
乙の運営に起因して近隣住民からの苦情が頻発し、是正勧告に従わない場合、または法令違反により行政処分を受けた場合、甲(貸主)は本契約を即時解除することができる。
第○条(消防設備等の設置)
民泊営業のために新たに必要となる消防用設備等の設置、維持管理、点検報告については、全て乙の責任と費用負担において行うものとする。
第○条(原状回復の特例)
契約終了時、乙が設置した造作・設備について、甲が承諾した場合は、乙は原状回復義務を免れ、当該造作等を無償で甲に譲渡することができる。
特に重要なのは「許認可の取得責任」と「トラブル時の解除権」です。これらを明記することで、オーナー様の法的リスクを抑えられます。
3. 【税務】消費税は「課税」。固定資産税の変動にも注意
お金に関する取り決めも、居住用とは明確に異なります。
消費税:課税取引になる
住宅の家賃は消費税が「非課税」ですが、民泊用(事業用)の家賃は「課税」対象となります。オーナー様がインボイス登録番号を有している場合は、契約書への記載が必要になります。
固定資産税・都市計画税:軽減措置の適用除外
土地の上に建つ建物が「住宅」である場合、基本的に土地の固定資産税は最大1/6に軽減されています(住宅用地の特例)。しかし、建物を民泊(旅館業)へ転用する場合、「住宅」とみなされなくなり、固定資産税が跳ね上がるリスクがあります。
※「住宅宿泊事業法(新法民泊)」の場合は住宅扱いが継続されるケースも多いようですが、必ず所轄の都税事務所や市町村へ事前確認が必要です。
4. 【法令】消防法と建築基準法(200㎡の壁)
物件を民泊施設として稼働させるためのハード面の法的要件です。これらは原則として「テナント(借主)」側で調査し、費用負担して適合させるのが一般的です。
消防法:「特定防火対象物」への変更
一般住宅から民泊施設になると、該当区画における消防法上の用途が「(5)項イ(旅館・ホテル等)」等の特定防火対象物(特定用途とも呼ぶ)に変更されます。これにより、自動火災報知設備、誘導灯、防炎物品の使用などが義務付けられます。これらの設置工事は、借主が行うケースが大半です。
また、民泊営業をするにあたり、借主は防火対象物使用開始届を所轄消防署に提出し、現地調査を経て消防法に適合する旨の確認を得なければいけません。建物全体での法適合を見られるため、オーナー様所有の共用部分の設備や法定点検等の実施についても適法な状態でなければなりません。
建築基準法:用途変更と確認申請
旅館業法に基づく民泊営業が行われる場合、建築基準法上の用途は「住宅」から「宿泊施設」に変更されます。
- 使用面積(共用部按分面積を含む)が200㎡以下の場合:確認申請の手続きは不要です(ただし、建築基準法への適合は必要)。
- 200㎡超の場合:完了検査済証の取得を含む、正式な確認申請手続きが必要です。
多くの民泊は200㎡以下で行われますが、大型物件を扱う場合は、検査済証の有無が契約の前提条件となるため注意が必要です。
損害保険の切り替え
最後に保険です。一般的な「住宅火災保険」では、民泊営業による事故(ゲストの失火など)は補償されません。必ず「店舗・事務所用の借家人賠償責任保険および「施設賠償責任保険」への加入を借主に義務付ける必要があります。
オーナー様の火災保険についても同様に、居住用財産用ではなく事業用になるため、保険料が値上がりします。あらかじめ代理店に見積もりを依頼すると良いでしょう。
5. まとめ:専門知識を持つパートナーとの連携が不可欠
このように、民泊向け賃貸は住宅賃貸よりも高い収益性を期待できる(より高い賃料が取れるため)反面、クリアすべき実務的なハードルが複数存在します。
これらの要件を整理し、オーナー様に安心していただけるスキームを組むには、当記事でご紹介した内容も含め、民泊の実務に精通している必要があります。
弊社は多数の民泊物件の借り上げ実績があり、法務・税務の専門家とも連携しています。民泊テナントへの賃貸を検討していてお悩みの事業者様など、お気軽にご相談ください。

