「コロナ禍で民泊が立ち行かなくなってレンタルスペースに鞍替えした」「レンタルスペースを始めたけど、将来的に民泊もやってみたい」「民泊で180日の受け入れとマンスリー賃貸を併用していた」という方は、これらの業界では珍しくないでしょう。
今回のコロナ禍においては、宿泊事業や観光事業、飲食事業などが壊滅的な打撃を受け、外出規制による集客リスクの大きさをまざまざと見せつけられる事態となってしまいました。
民泊が立ち行かなくなる中、物件を時間単位で貸し出すレンタルスペース事業が人気を集めており、参入する事業者が相次いでいます。しかし、本来的にはレンタルスペースも民泊などと同様の集客リスクを抱える業態であり、今は稼働が見込めるからと言って必ずしも安心できるものではありません。
この記事では、民泊・レンタルスペースを運営する方に、リスクヘッジ手段の一つとして、複数業態を同時展開できる「多毛作物件」のメリットを共有したいと思います。
多毛作物件とは
これは私が個人的に名付けたものですが、定義としては「民泊・レンタルスペース・マンスリー賃貸など複数業態を併用して運営可能な物件」というものです。
今回は民泊・レンタルスペース事業者に向けて書いていますが、「カフェの一部をレンタルスペースとして貸し出す」「事務所の使っていない会議室を貸し出す」「宿泊営業のできる部屋があるシェアハウス」など様々な多毛作物件が実在しています。
多毛作物件を押さえることで、一つの物件で複数の事業が展開できるため、後述のようなメリットを得ることが可能です。
多毛作物件のメリット
以下、具体的なメリットを解説します。
集客リスクのヘッジ
これがこの記事で最も伝えたい部分です。コロナ禍の現状では民泊の稼働率はおおむね低迷している状況ですが、レンタルスペースの稼働率はそこまで下がっておらず、大都市の好立地物件であれば民泊以上の利益を狙うこともできます。
また、マンスリーなどの短期賃貸借も一定の需要があるため、民泊物件の穴埋めで稼働している例は数多くあります。
これらの業態は一つの物件で同時に動かせる一方で、それぞれ対象とする顧客が異なり、集客リスクの性質も異なるため、並行して走らせることができればリスク分散に繋がり、売上の安定感が増すというわけです。
これまでは民泊で月50万円を売り上げていた物件が、月5万円まで下落してしまったとします。しかし、レンタルスペースとしての運営も併用して月15万円の売上、さらに翌月にはマンスリー賃貸が入って月15万円の売上が生じれば、売上の減少率をグッと改善できます。
異なるチャネルのユーザーに宣伝できる
民泊を販売する際は、AirbnbやBooking.comといった宿泊予約サイト(OTA)に物件情報を載せ、そこからの集客に頼るケースが基本です。そしてレンタルスペースであればスペースマーケット等の専用予約サイト、マンスリー賃貸は専用のポータルサイト等に情報を掲載し募集することになります。
つまり、業態ごとに専用の募集サイトがあり、それぞれ違う顧客層であるため、複数の業態を同時に走らせることで、これまでアプローチできていなかった層に対しての認知も獲得できるようになるというわけです。
日中パーティーで利用したお客さんが、今度は泊まりに来てくれるかもしれませんし、宿泊した民泊に長期滞在してみたいというお客様も現れるかもしれません。このように、一つの事業だけをやるよりも集客力が増す可能性がある点も、多毛作物件を利用するメリットだと言えます。
ノウハウを融合できる
民泊、レンタルスペース、マンスリー賃貸など、それぞれの業態によって最適な内装や立地、備品などは異なります。同時に複数業態を稼働させれば、リアルにゲストの反応が掴めるようになるでしょう。
運営していく中で「民泊では予約が入るけど、レンタルスペースは全然ダメだ。なんでだろう?」といった疑問が湧き出て、そこから仮説検証のプロセスを回すことが可能になります。これによって、今後それぞれの業態で新たに開業したり、今の物件を改善したりするためのノウハウが効率的に培われるのです。
多毛作物件を探す際の注意点
上記のようなメリットがある多毛作営業ですが、可能な物件を探すことは簡単ではありません。もしいずれかの業態で開業OKな物件が見つかったとしても、以下のような点は気を付けて確認しておきましょう。
展開する業態全てがOKなのか
「レンタルスペースは良いけど民泊はダメ」といった物件は珍しくありません。事業者サイドからすれば似たようなものに思えますが、民泊は建物全体に法的な影響を及ぼす可能性のある業態であるため、禁止とする物件がほとんどなのです。
そのため、「レンタルスペースがOKなら民泊も良いでしょ」といった自己判断は危険です。予定が崩れ、事業計画を修正せざるを得なくなる可能性があります。必ず管理規約や重要事項説明書などの記載を確認し、「書面で」問題がない旨を押さえる必要があります。
騒音等の営業リスクには気を付ける
民泊とレンタルスペースを併用する際の主なリスクが騒音リスクです。また内装・設備や備品の破損・汚損などのリスクも注目しなければなりません。
Airbnbでは度重なるトラブルの報告を受け、全面的にゲストのパーティー利用を禁止する措置を取りました。この点を鑑みると、民泊とレンタルスペースを併用する際は、騒音によりクレームや行政指導が入らないよう、慎重にオペレーションの整備や防音対策をする必要があります。
いずれの業態も居住者には迷惑をかけやすく、イメージも良くないため、トラブルに関してはシビアに考えるべきでしょう。民泊の場合、近隣住民に迷惑をかけた場合に営業停止命令が下る可能性も0ではありません。
それぞれの業態でニーズが見込めるか
難しいのはこのポイントです。それぞれの業態にそれぞれのターゲットがあり、利用ニーズは大きく異なります。例えば民泊物件なら「東京のベッドタウンの私鉄駅から徒歩10分」という立地でもある程度の宿泊ニーズが見込めますが、貸会議室やパーティールームといった業態ではまず稼働は見込めません。マンスリー利用にも不安が残ります。
そのため、検討している物件の立地や内装を鑑みて、その物件ならどの業態でどれくらいのニーズがあり、どれくらいの売上と粗利を見込めるかをそれぞれ精査しなければなりません。
多毛作物件の探し方
多毛作物件は、民泊OKの物件を探すのがもっとも手っ取り早いのではないかと思います。民泊ができれば多くの業態では展開が可能なためです。
また、この記事で挙げている業態以外であれば、店舗物件用のポータルに営業可能な業態一覧が記載してあるケースが多いため、それを参考にして物件を探し、営業プランを伝えて許可を貰う、というプロセスが効率的です。
まとめ
新型コロナウィルスの影響で外出規制が起こり、経済に大打撃が生じる、という未来を予想できた人は非常に少ないのではないでしょうか。
それ以外にも、地震や台風などで大きな被害を受ける例も日本では珍しくありませんし、大国間の緊張関係も続いていることから、最悪日本が戦争に巻き込まれるリスクだって0ではありません。このような「いつ起こるか分からない、想定していなかったリスク」とは、事業をやる上では常に隣り合わせとなります。
特に、現状を見ても分かるように、民泊やレンタルスペースといった店舗型の業態は、上記のような外的リスクに大きく影響を受け、急激に業績が低迷したり、逆にテレビに報道されるなどでにわかに予約が満載になったりと、自らの手で集客や収支をコントロールできない部分も多くあります。
こうしたリスクを現実的にできるだけ抑える手段として、多毛作物件を探し、そこで複数業態を同時に走らせることを検討してみてはいかがでしょうか、というのが私の提案です。物件を探すのは簡単ではありませんが、探す価値はあると思います。
私は多毛作展開を常に意識して民泊・レンタルスペース物件を選び営業しつつ、さらにリスクヘッジを図るためにWebマーケティングや不動産賃貸などの別のビジネスも展開しています。
短期的に目立った効果が見込めるものというよりは、リスク分散を図ることで将来の損失を軽減し経営の安定化を図るものなので、一見すると地味かもしれませんが、ぜひ意識してみて頂ければと思います。