民泊新法(住宅宿泊事業法)の届出作業は意外と手間がかかります。必要書類が多く、それを集めるのに苦労するからです。この記事では、届出をするにあたっての手順や必要書類の取得方法、注意点などを解説していきます。
事前に確認しておくべきこと
物件を借りる・購入する前に確認しておくべきことの中で最も注意すべきポイントは、その自治体の条例です。一部の自治体では住宅宿泊事業法の規定よりも厳しい規制を課しているところもあり、本来であれば営業が可能な住居専用地域での営業が不可能だったり、週末しか営業できなかったりする場合もあるため、必ず調査しておきましょう。
また、賃貸物件の場合、民泊営業が可能である旨は必ず契約書に記載してもらうことと、家主および管理組合(分譲マンションの場合)から民泊営業を承諾する旨の覚書も合わせて作成・締結することが必要になりますので、仲介業者さんにあらかじめ交渉してください。
そのほか、家主不在型民泊では、住宅宿泊管理業者へ事業を委託することが義務化されているため、あらかじめ対応可能な事業者がいるかどうかも調べておく必要があります。
所有物件では居住要件も確認
民泊新法によって民泊営業を行うことが可能な住宅には、以下の居住要件が定められており、この条件を満たす物件でなければ営業は不可能という立てつけになっています(参照:民泊制度ポータルサイト「対象となる住宅」)。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 随時その所有者、賃貸人又は転借人の居住の用に供されている家屋
つまり、「現に住宅として活用されている物件」もしくは「賃貸住宅として募集している物件」であることが求められます。定住物件だけではなく、別荘などの一時使用物件でも認められます。一方、居住履歴のない新築物件や、店舗や事務所などに使用されている部分は、民泊営業が認められません。
必要な設備要件をチェック
民泊新法では、通常の住宅に求められる設備要件を満たしていれば、後は消防設備の設置だけで足りるケースが一般的です。具体的には「浴室・トイレ・キッチン・洗面」があれば問題ありません。
マンション物件であれば、ほとんどのケースで既に自動火災報知設備が設置されているため、新たに消防設備の設置をしなくて済む場合が多いため楽になります。
消防法の手続きを行う
家主滞在型でゲストの宿泊室の面積が50㎡を超える場合、もしくは家主不在型民泊を行う場合で、物件に消防法上設置が必要な消防設備がない場合は、新設して消防署に届出を行い、現地確認を経て消防法令適合通知書を交付してもらう必要があります。
通常の住宅であれば、間取り的に「特定小規模施設用自動火災報知設備」が使用できるケースが多いため、必要な消防設備一式を設置しても20~30万円程度で済むケースが多いでしょう。通常、火災報知設備等の消防設備の調達や設置工事、申請関係は防災業者に発注します。
必要な工事が完了したら、消防署に申請して現地査察を依頼し、査察で問題がなければ消防法令適合通知書が交付されます。通知書は届出時に民泊ポータルサイトでアップロードが必要になるため(必要ない自治体もあります)、スキャンデータや写真を用意しておきましょう。
申請に必要な書類を揃える
民泊新法の届出に必要な書類は数多くあります。具体的には以下の通りです(参照:民泊制度ポータルサイト「届出の際の添付書類」)。これに加えて、消防法令適合通知書など一部書類が追加で必要になる場合もあります。
法人の場合
- 定款又は寄付行為
- 登記事項証明書
- 役員が、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書
- 住宅の登記事項証明書
- 住宅が「入居者の募集が行われている家屋」に該当する場合は、入居者募集の広告その他それを証する書類
- 「随時その所有者、賃借人又は転借人に居住の用に供されている家屋」に該当する場合は、それを証する書類
- 住宅の図面(各設備の位置、間取り及び入口、階、居室・宿泊室・宿泊者の使用に供する部分の床面積)
- 賃借人の場合、賃貸人が承諾したことを証する書類
- 転借人の場合、賃貸人及び転貸人が承諾したことを証する書類
- 区分所有の建物の場合、規約の写し
- 規約に住宅宿泊事業を営むことについて定めがない場合は、管理組合に禁止する意思がないことを証する書類
- 委託する場合は、管理業者から交付された書面の写し
- 欠格事由に該当しないことを誓約する書面
個人の場合
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書
- 未成年者で、その法定代理人が法人である場合は、その法定代理人の登記事項証明書
- 欠格事由に該当しないことを誓約する書面
- 住宅の登記事項証明書
- 住宅が「入居者の募集が行われている家屋」に該当する場合は、入居者募集の広告その他それを証する書類
- 「随時その所有者、賃借人又は転借人に居住の用に供されている家屋」に該当する場合は、それを証する書類
- 住宅の図面(各設備の位置、間取り及び入口、階、居室・宿泊室・宿泊者の使用に供する部分の床面積)
- 賃借人の場合、賃貸人が承諾したことを証する書類
- 転借人の場合、賃貸人及び転貸人が承諾したことを証する書類
- 区分所有の建物の場合、規約の写し
- 規約に住宅宿泊事業を営むことについて定めがない場合は、管理組合に禁止する意思がないことを証する書類
- 委託する場合は、管理業者から交付された書面の写し
全てを集めるのは骨が折れます(この点においては旅館業法より手間がかかると言えます)。以下、入手手続きについてまとめます。
定款又は寄付行為
「商号、事業目的、役員数、任期及び主たる営業所又は事務所の所在地が登記事項証明書の内容と一致しているものであって、現在効力を有するもの」の提出が必要です。定款と定款変更同意書をPDFファイルにまとめておきましょう。
登記事項証明書
自社の登記事項証明書です。法務局で取得できます。「未成年者で、その法定代理人が法人である場合は、その法定代理人の登記事項証明書」も同様です。
(役員が、)破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書
本籍地の役所で取得します。
欠格事由に該当しないことを誓約する書面
民泊ポータルサイトで「様式A(法人用)」「様式B(個人用)」をダウンロード・印刷して記入します。
住宅の登記事項証明書
法務局で取得できます。オンライン申請で取得する場合には、忘れずに照会番号も取得しておきましょう。
住宅が「入居者の募集が行われている家屋」に該当する場合は、入居者募集の広告その他それを証する書類
賃貸募集を行っていることを証明できるマイソク、ポータルサイトの掲載ページのキャプチャ、媒介契約書などが該当します。
「随時その所有者、賃借人又は転借人に居住の用に供されている家屋」に該当する場合は、それを証する書類
公共料金の明細書や、物件の付近で日用品を購入した際のレシートなどが該当します。
住宅の図面(各設備の位置、間取り及び入口、階、居室・宿泊室・宿泊者の使用に供する部分の床面積)
平面図に内法寸法と宿泊者が使用する床面積を記載したものです。
賃借人の場合、賃貸人が承諾したことを証する書類
大家さんが民泊営業を許可する旨の覚書です。仲介業者もしくは管理会社に依頼しましょう。
転借人の場合、賃貸人及び転貸人が承諾したことを証する書類
サブリース物件の場合は転貸人の許可も取得する必要があります。
区分所有の建物の場合、規約の写し
分譲マンションの管理規約です。民泊営業が禁止されていない旨を証明するものです。管理会社もしくは管理組合に依頼しましょう。
規約に住宅宿泊事業を営むことについて定めがない場合は、管理組合に禁止する意思がないことを証する書類
管理規約に「民泊営業を許可する」旨の明記がない場合には、管理組合からの許可を示す書類も合わせて貰う必要があります。
委託する場合は、管理業者から交付された書面の写し
委託する住宅宿泊管理業者から受領します。
民泊ポータルサイトで申請手続き
上記の書類が揃ったら、一つずつPDF等のデータファイルに変換し、「民泊制度ポータルサイト」にアクセスして届出手続きを行います。使い勝手が悪く苦労しますが、慣れればある程度スムーズにできるようになるので、頑張ってください…。
必要事項の記入と書類のアップロード作業を行って届出ボタンを押したら、後日保健所から現地査察の依頼が来ます。査察の完了後、届出が受理されて営業が可能になります。
このように「届出」と銘打っているものの、実際には旅館業法と同じく実質的に許可制であるため、手続きをしっかりと踏まなければならないのです。
開業後は営業日数を記録する
民泊の開業後は、隔月ごとに営業日数を民泊ポータルサイト上で申告する必要があります。申告が漏れると後からの申告が不可能という厄介な仕様であるため、日数管理が煩雑にならないように漏れなく申告をしてください。
なお、各OTAと行政とは常に連携を取っており、事業者の営業日数についても情報共有を行っています。そのため営業日数をごまかして年間180日以上の営業を行ったり、条例で禁止されている日程に営業を行ったりすると、すぐに発覚してしまいます。ズルやミスが無いようにしましょう。
まとめ
民泊新法の届出は必要書類が多く煩雑です。平日に各官庁に訪問して取得する必要がある書類も多いため、平日の日中に動けない方は行政書士などに依頼すると良いでしょう。また消防設備も旅館業物件と同様に設置が必要になるため、戸建住宅などではある程度の投資を見込む必要があります。
民泊開業までのハードルはあまり低いとは言えませんが、これをクリアすることが営業するための条件になりますので、プロの手も借りつつ手続きを進めてみてください。