民泊物件への投資額と投資回収期の関係性から考えるポジショニング戦略

民泊は他の宿泊業界と同じく、不動産を軸にした装置産業です。物件のリノベーションや備品の調達などにまとまった資金が必要になるため、物件ごとにどれぐらいの投資を行えば良いのか、どれぐらいバリューアップをすれば良いのかは悩むところです。

投資額の多寡については一概には言えず、各投資レンジにおいて、それぞれメリット・デメリットが存在します。今回は民泊物件への投資額と投資回収期の関係性を見たうえで、どれぐらいの投資額を見込めば良いかを解説していきます。

投資額と投資回収期の関係性

まず民泊物件への投資額と投資回収期の関係性について、ポイントを見ていきます。

投資額が大きいほど投資回収期は伸びる

投資額が大きいほど投資回収期は長くなる傾向にあります。投資額を増やして良い物件を作るほど売上単価や稼働率が向上しますが、それを考慮しても、投資額が大きければそのぶん回収までには時間がかかることになります。

また投資額が一定額を超えると、現金ではなく融資を受けて投資を行うことが普通になります。金利の上乗せ分を考慮すると、これも投資回収期を長くする要素になります。

投資額が大きいほど収支が安定しやすい

一方、多額の投資を行うほど宿泊施設としてのグレードが上がり、競合の参入障壁も高くなります。それ故に、供給過剰になることで単価や稼働率が減少するリスクを軽減できます。

コロナ禍の宿泊市況においては、リゾート地の高級宿は稼働が好調だった一方で、安宿の稼働率が低迷する傾向が顕著に見て取れました。これは安宿が、投資額が低いために参入しやすく施設数が増えやすいこと、投資額が少ないがゆえに他の施設との差別化が難しいことが理由として考えられます。

しっかりと投資を行い、他の宿泊施設との差別化を図ることで、経営の安定性を向上できるのが宿泊事業の特徴です。ゆえにホテル業界などではアセットヘビーな装置産業として扱われ、不動産業界とも密接な繋がりを持っているのです。

投資回収にはキャピタルゲインも考慮する

民泊投資において、あまり語られてはいないものの重要なポイントとして「キャピタルゲイン」があります。端的に言えば不動産や事業などの売却益であり、まとまった売上を得られるほか、事業等の利益確定を行う意味合いもあります。

賃貸物件で民泊を行っている場合には、事業譲渡もしくは居抜き物件として造作譲渡を行う形になりますが、資産価値が収益性に限定されるため、多額の利益は見込みづらいと言えます。

一方、自身で物件を保有し民泊を営業する場合には、これまでの設備投資による資産価値の向上と収益性の両面から価格設定を行えるため、大きなキャピタルゲインを狙うことも可能になります。上述の通り投資額が大きいほど投資回収期は長くなるので、多額の投資を行う場合にはキャピタルゲインを確実に獲得できる戦略を立てておきたいところです。

初期投資額と投資回収期の簡易シミュレーション

さて、上記のポイントを簡単に理解するために、ここでは簡易シミュレーションを行ってみましょう。賃貸物件に対して、一泊あたり平均単価と稼働日数を仮定して、初期投資額を何ヶ月で回収できるかを見ていきます。

※初期投資額は、物件の改修費用・設備備品の費用に限定し、不動産に係る初期費用や保険料等は考慮しません。一泊あたりの単価と経費は、グレードごとに目安となる仮の数値を入れています。稼動日数については住宅宿泊事業法の上限である180日を月割りした15日とします。

※清掃費は売上・経費ともに考慮しません。実際には、一組あたりの平均宿泊日数が長いほど清掃費の経費率は低くなるため、外国人観光客の予約割合が高いエリアほど収支が改善する見込みが上がります(基本的に連泊してくれるので)。

初期投資50万円の場合

初期投資額が50万円で済む物件は、主にワンルームマンションです。都市部での民泊ではワンルーム物件の供給も多く、初心者にも始めやすい一方で、差別化が難しいことから必ずしも難易度は低くありません。立地と需給バランスがものを言うレンジになります。

  • 単価10,000円×15日=売上150,000円
  • OTA手数料(15%) 150,000×0.15=22,500円
  • 家賃80,000円
  • 水光熱費ネット代9,000円
  • 消耗品費1,000円
  • 月間粗利益 37,500円
  • 500,000÷37,500=13.33 … 投資回収期13.4ヶ月

東京23区など、大都市の都心付近を想定した収支です。上記の通り、投資回収は1年少々とかなり速くなります。ワンルームの間取りと投資額が低いことから差別化が難しいため、宿泊単価を上げることは難しくなります。そのため、旅館業許可を取得し180日以上稼働させるか、マンスリー賃貸需要が期待できるエリアを選定することが重要だと考えられます。

初期投資150万円の場合

ファミリータイプのマンションや戸建住宅で投資額を抑えた場合には、150万円から200万円程度の投資額が目安になるでしょう。こちらも供給は多いレンジになりますが、エリアによって受給バランスが大きく変わるため、立地選定次第で安定性も向上できるでしょう。

  • 単価20,000円×15日=売上300,000円
  • OTA手数料(15%) 300,000×0.15=45,000円
  • 家賃150,000円
  • 水光熱費ネット代15,000円
  • 消耗品費2,000円
  • 月間粗利益 88,000円
  • 1,500,000÷88,000=17.04 … 投資回収期17.1ヶ月

東京23区の郊外でファミリーマンションを借りた時の家賃を想定しています。ファミリータイプの間取りだとワンルームに比べて売上単価を高くできますが、マンスリー賃貸での投資回収が難しくなるため、旅館業許可を取得し180日を超える営業日数を確保したいところです。

ファミリータイプの物件は、築古物件の家賃がワンルーム以上にお得になるため、できるだけ家賃が低く、かつ初期投資額を上手く抑えられる物件を根気よく探すことで、事業の成功率をアップできるでしょう。

初期投資額500万円の場合

ファミリータイプの物件で水回りや床・壁・天井などを刷新する場合には、初期投資額を500万円程度は見ておくと良いでしょう。浴室やキッチンなどが広くて使いにくかったり、見栄えが悪かったりするとマイナスポイントになるので、築古物件を購入し改修する場合には、これくらいの投資額は目安として考えておきましょう。

  • 単価30,000円×15日=売上450,000円
  • OTA手数料(15%) 450,000×0.15=67,500円
  • 家賃150,000円
  • 水光熱費ネット代15,000円
  • 消耗品費2,000円
  • 月間粗利益 215,500円
  • 5,000,000÷215,500=23.20 … 投資回収期23.2ヶ月

綺麗にリノベーションを行うことで宿泊単価を上げられるため、売上を増やせます。ただし、ただ綺麗にしただけだと差別化には繋がりにくいので、宿泊需要や近隣施設の内装を見ながら、意匠にもこだわる必要があります。なるべくお金をかけずに見栄えを良くする方法を、施工業者さんと一緒に考えると良いでしょう。

初期投資額2,000万円の場合

戸建をフルリノベーションした場合や小規模ビル一棟をリノベーションした場合には、4ケタ万円の投資額も必要になります。間取りの変更や用途変更を伴う大きな工事にもなるでしょう。資本力のある大企業などは、基本的にこのポジションで事業を行います。

  • 単価50,000円×15日=売上750,000円
  • OTA手数料(15%) 750,000×0.15=112,500円
  • 家賃250,000円
  • 水光熱費ネット代25,000円
  • 消耗品費4,000円
  • 月間粗利益 358,500円
  • 20,000,000÷358,500=55.79 … 投資回収期55.8ヶ月

大箱物件をフルリノベーションすることで、費用は大きくかさむものの差別化できる余地は多分にあります。どれだけ魅力的なコンセプトを提供できるかが鍵になるでしょう。またリノベーションの際に旅館業法に適合する仕様にすることが前提となるため、毎月の稼動は20日以上を安定して見込みたいところです。

このグレードになると、建物の価値を向上して事業を行うことになるため、単に賃貸物件で事業を行うよりも、保有物件を活用するなどでキャピタルゲインを意識した収支計画が望ましいでしょう。

シミュレーション結果のまとめ

ざっくりしたシミュレーションではありますが、投資額が大きいほど回収まで時間がかかることがおわかり頂けたのではないかと思います。

投資額が少ないと、競合が増えることで売上が不安定になるリスクは高い一方、早期に投資回収が見込めるため、賃貸物件でスピーディーな事業展開を行うのに適していると言えます。

対して事業の安定性と建物のバリューアップにメリットを持つ多額投資のスタイルでは、物件を購入し売却することでキャピタルゲインを得る戦略も合わせれば、投資回収期のリスクを抑えることが可能になります(上記シミュレーションの家賃は借入金返済額に読み替えてください)。

事業の方向性から取るべき戦略を選ぶ

以上のように投資額によって取るべき戦略が変わってくるため、民泊物件への投資額をどれぐらい見込めば良いのかは、あなたの事業の方向性から逆算する必要があると言えます。

リスクを抑えてスピーディーな事業展開をしたければ、賃貸物件を狙って、なるべく投資額を抑えて多店舗展開に振り切る。融資を積極的に活用してキャピタルゲインで大きな利益を狙いに行く場合は、良い物件を購入し適切なリノベーションを行う戦略で臨む。といった形になるでしょう。

ちなみに副業で民泊を行う場合は、前者の戦略などで複数物件を運用する際には運営代行会社を活用し、本業とうまく両立できるようにするのが良いでしょう。後者の戦略は、既に不動産投資の経験がある方なら比較的馴染みやすく、物件数が少なければ副業でも日々の運営はこなせるでしょう。

まとめ

民泊物件にどれぐらいのお金をかけるかは、あなたの事業の方向性と市場の需給バランスから考えると良いでしょう。投資額が少なければ早期に投資額を回収でき、大きく投資を行えば事業が安定しやすくなります。単純にどちらが良いか悪いかは言えませんので、ご自身の状況に合わせて計画してください。

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