リスティングが公開されたら、いよいよ民泊の運用フェーズに入ります。安定して利益が確保できるように継続的に見直しを行いつつ進めていきましょう。
今回は民泊運用時のプロセスについて簡単にまとめた上で、民泊を運用する際の主なポイントや、民泊につきもののよくあるトラブルの一例と対処法について解説します。
民泊運用のプロセス
民泊の運用は、まず予約が入るのを待つことから始まります。ときおり予約前にメッセージやメール、電話などで、物件に関する質問を受け取ることもあります。その場合はなるべく早めに、かつ誠実なレスポンスを心がけ、予約を取り逃さないようにしましょう。
なかなか予約が入らない場合は、リスティングの内容が悪いか、あるいは価格設定が高すぎるか、もしくはその他何かしらの問題があると考えられるため、今いちど写真や紹介文、価格などを見直してみましょう。ただし、リスティング公開から一月ほど経っても予約が入りすぎる場合は、価格が安すぎるという可能性もあるため、少し値上げして様子を見ると良いでしょう。
予約が入ったら、チェックイン・アウト手順の案内や清掃スタッフの手配を行います。この際、宿泊者名簿の記入の案内も行いましょう。そしてこれらの案内文はテンプレート化しておきましょう。名簿の記入は、現地でチェックインシステムにて入力してもらうというパターンも一般的ですが、弊社では予約が入った時点でGoogleフォームに必要情報を記入してもらう形にしています。
当日チェックインの際は、「鍵の開け方がわからない」などの問い合わせが来ることもあります。なるべくすぐに返信できる体制を作っておくのが望ましいでしょう。またチェックアウト当日にはリマインドも添えてあげることで、細かなトラブルを防ぎます。チェックアウト後には清掃スタッフが作業に入ることになるため、作業の開始や完了の報告も受け取ります。
上記のようなプロセスでゲストを受け入れていくと、少しずつレビューが溜まっていきます。良いレビューは励みになりますが、より大切なのは悪いレビューです。改善点が明確になるためです。すぐに対策を講じて施設のクオリティを向上し、レビュー点数を上げていくことが重要です。
なお住宅宿泊事業法に基づいて営業する民泊物件は、2ヶ月おきに民泊ポータルサイト上で営業日数の報告をする必要があります。毎回リマインドメールが届きますので忘れずに対応しましょう。
民泊運用のポイント
以上のような流れで民泊を運用することになりますが、その中で具体的に押さえておきたいポイントについてまとめます。
レスポンスはできるだけ早くする
ゲストにはなるべく迅速に返信をするようにしましょう。平日は仕事で対応できないという場合には、運用代行業者やメッセージのみ代行してくれる業者に委託することで、即レスができる体制を整えておきましょう。
無人型の民泊の場合、ゲストは分からないことがあっても滞在するスタッフにその場で確認するということができないため、すぐにホストから返信がなければ不安になってしまいます。もちろん滞在の印象も悪くなってしまうため、悪いレビューをつけられてしまう可能性も上がります。
なおAirbnbでは、ゲストからの初回の問い合わせに対して24時間以内に返信をしなければ、ホストとしての品質評価が下がってしまうという仕組みになっています。予約率の向上につながるスーパーホストというライセンスの認証にも悪影響を与えてしまいますので、返信の抜け漏れや遅れがないようにしたいものです。
予約状況を日々確認する
予約状況は日々確認しましょう。毎月の稼働状況を見ながら、経営は順調かどうかをチェックし、予約が少なければ価格やリスティングなどを見直し、逆にほとんど空きがない状態になっていたら値上げをするといったアクションが必要です。
注視したいのは平日と週末のそれぞれの予約状況です。日本人ゲストは土曜日など休日や週末に予約を入れる割合が非常に高いため、コロナ禍の現状においては平日の稼働率が低くなりがちです。平日と週末の価格差の見直しや(将来的な)外国人集客戦略の見直し、その他日本人ゲストにも平日に宿泊してもらえるような施策を考えることで、バランスよく予約を集めることが重要と言えます。
こまめに価格変更を行う
価格の変更は予約状況を鑑みてこまめに行いましょう。平日と週末祝前日の価格差を設定することはもちろん、人数や宿泊日数ごとに一人当たりの単価を調整することや、シーズンの繁閑に合わせてベース価格を調整することなども必要になります。
価格設定はどこまで行っても悩みがちなものですが、ある程度運用期間が長くなってくれば、予約状況から最適な価格が少しずつわかってくるようになります。利益が最大化できそうな価格はどれくらいなのか、常にPDCAを回しながら探っていくことが求められます。
実績データやレビューからPDCAを回す
価格以外にもリスティングや写真、設備や備品、各種案内メッセージや掲示物など、運用を進める中で改善余地は次々と出てくるものです。それに気付くためには、様々な実績データ(OTA管理画面上で閲覧可)やレビュー文章を参照し、解決すべき課題を明確にすることが必要です。
できれば、いつ何を改善したか、合わせてその時点のクリック率や成約率などの数字を記録した上で、修正後にそれらの数字がどれだけ向上したかをモニタリングする体制を作りましょう。こうすることで時間を経るたびにPDCAの精度をアップできます。
よくあるトラブルの対処方法
民泊を運営する中でよく遭遇するトラブルの事例と、それに対処する方法について解説します。
設備、備品等を破損、汚損、盗難された
酔っ払ったゲストに建物の設備や内装、備品などを壊されたり汚されたりするケースは珍しくありません。またポケットwifiなど、持ち運び可能かつある程度の価値があるものは盗難のリスクもあります。
これらは、まず事前に、ゲストが破損や汚損をしてしまった際にはすぐ写真を添えて報告してもらうように案内を送ることが大切です。写真および事実関係を確認できる文章は保険請求や損害賠償請求において必要な証拠となります。加えて、破損等が認められた場合には損害実費および営業補償費を負担してもらうことをルールに明記しておくと良いでしょう。
また、ゲストから破損等に関する特段の連絡がなく、ホスト側で破損等に気づいた場合は、写真を撮影し、ゲストに事実関係を確認しましょう。Airbnbでの予約の場合は、同社スタッフが仲裁に入ってくれるケースもあります。
事実関係が確認できた場合は、保険代理店に経緯と写真を送った上で、指示に従いつつ保険申請を行いましょう(場合によっては損害賠償請求を選ぶこともあります)。その際、破損等の修繕費用の見積書が求められるため、業者の手配も行う必要があります。無事申請が受理されれば、その修繕費用について保証金を受け取れます。
ゲストと連絡がつかない場合やしらばっくれられる場合には、まずは様々な連絡手段でしつこく催促し、それでも進捗しない場合は、損害賠償請求のために弁護士経由で内容証明郵便を送付することや、Airbnb予約の場合には同社への仲裁を依頼しましょう。なお裁判は60万円以下の訴訟提起であればさほど負担は大きくありませんが、費用対効果に見合わない場合も多いため、裁判をするかどうかは慎重に判断しましょう。
近隣から騒音の苦情を受けた
また、近隣から騒音の苦情を受けるケースも多く、民泊バブルの頃にはこれが問題視されていました。大人数が泊まれる物件や、住宅密集地の木造・鉄骨造物件などでは特に注意が必要です。
苦情を受けた旨の報告を受けたら、速やかに苦情を発した主の元に手土産を持って謝罪に行くことが望ましいでしょう。その際には、掲示物や案内を強化したり、騒音防止につながる何らかの設備や仕組みを整備したりすることで対策を図る旨を伝え、安心感と信頼感を持ってもらえるように努めましょう。
ゲストがゴミを集積所等に捨てて苦情を受けた
騒音と同様に、ゲストがゴミを民泊物件の外に捨ててしまうことで近隣から苦情を受けるというケースも多発しています。
本来民泊で出たゴミは事業ゴミとして、専門業者に回収・廃棄してもらわなければなりません。しかし曜日を無視してゴミ集積所などにゴミを捨ててしまうゲストも散見されるため、そのようなことが起きないよう、ゴミ箱の前に目立つ注意書きを掲載するなどし、民泊の外にゴミを持ち出さないようにしてもらうことが大切です。
ゲストが道に迷って民泊に辿り着けない
チェックイン日に、ゲストが道に迷ってしまい民泊にたどり着けないと連絡がくるケースも珍しくありません。対策としては、地図アプリの目的地のURLを送る、空港などから最寄り駅までのアクセス経路を送る、最寄り駅から民泊までのアクセス経路を写真付きで送る、の3点を全て行うことが有効です。
地図アプリに慣れていないゲストや地理感の全くないゲストは多いので、複数の手段で丁寧に道案内をしておくことが重要になるのです。住所やOTA上の地図だけでは足りないと意識しておくのが良いでしょう。また、キーボックスやスマートロックの開け方がわからないゲストも一定数いるため、これも写真付きで案内を送るのがベストです。
インターネットに繋がらない
ゲストの滞在中、インターネットに繋がらない、または繋がらなくなったという問い合わせもよく受けます。特に固定回線の場合に同様のトラブルがよく起こる傾向にあります。
固定回線の場合、ルーターとモデムの電源を切り、1分ほど待ってからモデムとルーターの電源を入れるというプロセスを通して、ネットワークをリセットすることで解決できるケースがほとんどです。解決しない場合はLANケーブルなどがちゃんと接続されているか、ルーターとモデムの電源は入っているかなどの基本的な事柄を確認するほか、解決の糸口がつかめない場合はプロバイダーに質問してみることも有効です。
モバイルwifiの場合も端末を再起動するだけで解決するケースがほとんどです。電源ボタンを長押しするだけでON/OFFが調整できるため、苦労することはないでしょう。あるいは速度制限に引っかかり、通信速度が極端に遅くなったことでインターネットに繋がらなくなったと勘違いされるケースもあるため、その場合は通信制限についての説明をしましょう。
お湯が出ない
意外とある問い合わせに、お湯が出ないというものがあります。給湯器の電源がオフになったままというケースも多いのですが、弊社が遭遇した意外なパターンとして、水とお湯が分かれた昔ながらの蛇口の使い方が分からず、水の方だけをひねっていた、という若いゲストも数名いました。
基本的にゲストのケアレスミスであることがほとんどなのですが、それを生じさせる原因はホスト側の案内が足りないためだと考え、ゲストがミスをしないように掲示を充実させることが有効です。ただし給湯器などの故障が原因の場合もありますので、お湯が出ないと報告を受けた際には現状確認も慎重に行った上で、対処法を数パターン連絡し原因を解明することも大切です。
ダブルブッキングしてしまった
複数のOTAに物件を掲載していると、時折カレンダーの連携ミスによってダブルブッキングが生じてしまうこともあります。ダブルブッキングが発生したと気付いた時には、速やかに後から予約を入れたゲストに連絡をし、無料キャンセルと代替宿泊施設の提案を行いましょう。
しかし、ダブルブッキングが発生したことに気付かず、知らずにチェックインしたゲストから大目玉を食らってしまったという事例もよくあります(私も一度やらかしました)。この場合、即レス(電話が望ましい)と真摯な対応、代替宿泊施設の提案を行い、可及的速やかなリカバリーに努めるほかありません。
ダブルブッキングが起きないよう、予約カレンダーはiCal連携(Googleカレンダー等での予約管理)やサイトコントローラーなどでもれなく管理しましょう。
清掃を忘れたままチェックインさせてしまった
こちらもよくあるトラブルかつゲストの心象を大きく害してしまうものです。前のゲストのチェックアウト後に清掃を入れ忘れ、汚い状態のままゲストを迎えてしまうというパターンです。
こちらも可及的速やかに清掃スタッフに直行してもらい、リカバリーに努めることが大切です。場合によっては無料キャンセルを打診されることもあるでしょうが、その場合は真摯に対応しつつも落としどころを探るようにするのがポイントです。
弊社で清掃の抜けが発生した事例では、普段清掃スタッフには予約が入った段階で自動的に通知が飛ぶようにフローを設計しているものの、スタッフがその日程の通知に気づかず、私も清掃スケジュールの抜け漏れに気がつかないまま当日を迎えてしまったことが原因でした。幸い、チェックイン1時間前に清掃忘れに気づいてスタッフに連絡し、迅速な対応によりゲストの心象を大きく害することには繋がりませんでしたが、レビューの点数は少々厳しいものでした…。
以上のように、民泊の運営には様々なトラブルはつきもので、悪い報告を受けた際にはどうしても心拍数も上がりがちになります。ですが迅速なリカバリーをどれだけ図れるかで、のちのち民泊事業に及ぼすインパクトが大きく変わります。お客様商売にトラブルはつきものなので、覚悟を決めて迅速かつ誠実な対応を行いましょう。
おわりに
これまで、民泊の開業に関心がある方に向けて、民泊開業のプロセスやメリット・デメリット、許可申請の手順や運営のノウハウなど、一連の流れを解説しました。
2021年5月時点では、未だ猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で、外国人観光客の集客はもちろん、日本人観光客の集客も厳しい状況にありますが、この状況が改善されればインバウンド観光市場はまだまだ世界的に成長産業といえるため、民泊にも大きなチャンスがあります。特に日本はここ数年で大きく世界中の旅行客から人気を集めており、今後も観光産業や宿泊業は成長が見込まれます。
民泊運営が可能な物件を見つけることや開業許可の取得などには少々高めのハードルがありますが、事業自体は個人の副業としてもチャレンジできるくらいの手間と費用で参入できる手軽さがあるため、関心のある方は積極的にチャレンジしていただければと思います。運営代行業者に委託をすれば業務のほとんどをお任せできるため(業者の精査は必要ですが)、本業が忙しい方でも運用は可能です。
筆者個人的には、民泊や小規模な宿泊施設は、衰退してゆく地方の活性化にもつながったり、全国に増えてゆく空き家の有効活用にも繋がったりするため、社会的意義も高いほか、場所を選ばずに仕事できる人を増やすことにも貢献できる面白いビジネスだと感じます。
また、民泊の「暮らすように泊まる」といったコンセプトは、有名な観光地を巡るバスツアーのような通りいっぺんの観光スタイルを好まなくなった多くの人々には刺激的なもので、今後も観光客の関心を大いに集める要素になると考えます。ホストの想いや街の魅力、住民との交流をコンテンツとし、唯一無二の宿泊施設を提供する民泊という事業は、とてもユニークでチャレンジングなビジネスだと言えるのではないでしょうか。
副収入源として民泊にチャレンジしたいという方、使っていない空き家を持て余している方、宿泊施設や観光業に興味のある方など、具体的に民泊を始める準備を進めてみてはいかがでしょうか。一連の記事も参考にしていただき、一歩を踏み出していただければ幸いです。