企業の資金調達方法の一つとして「社債の発行」があります。その中でも購入を勧誘する人数が50人以下などの条件で発行できる「小人数私募債」は、金融機関での手続きや担保設定、保証人が不要で小回りの利くものです。
この少人数私募債であれば、ブロックチェーンを活用することで社債の発行や利払い、セキュリティ管理を大きく効率化することが可能になります。
少人数私募債とは
少人数私募債とは、下記の要件を満たして発行される社債のことを指します。
- 社債の取得勧誘の相手方が49名以下であること
- 転売制限が付されている旨が有価証券等に記載されていること
社債の購入を勧誘する相手先および所持する先がそれぞれ49名以下であることが、少人数私募債の最も大きな条件です。
それを守るために、「6ヶ月以内に発行された同種の社債と合わせて相手方人数を算出する」「一括譲渡以外では社債譲渡が不可能」「社債分割の不可」といった条件も付されます。
このように文字通り少人数に対してしか社債を購入してもらえず、大規模な資金調達は難しい一方で、そのぶん金融庁への情報開示義務や金融機関への手続き、担保や保証人設定が不要というメリットがあります。
そのため、費用と手間をかけず、小口の資金調達をしたい場合に少人数私募債が一つの選択肢となるわけです。
独自トークンで簡単・安全に社債を発行、管理
社債を発行するとなると、引き受けてくれる相手方に対して証書となるものを渡し、また発行側もそれぞれの引受先情報を厳重に管理して、利払いや元本の返還漏れ、あるいは払い過ぎや情報の改ざんが無いようにしなければなりません。
通常これらの実現には相応の手間がかかりますが、ブロックチェーン上で独自仮想通貨(トークン)を発行し、それを社債の権利書として相手方に渡す形を取ることで、発行も簡単になり、かつ情報管理も非常に便利になります。
ブロックチェーン上に記録された利払いや元本返還、早期償還などの取引情報は、一つひとつに秒単位のタイムスタンプが自動で押印されるほか、不正に改ざんされる恐れが無いために高い利便性を持ちます。
スマートコントラクトで自動利払いできる
ですが、ブロックチェーンの良さはそれだけではありません。トークンの着金などをトリガーに、あらかじめ組まれたプログラムを自動で実行する「スマートコントラクト」の機能によって、利払いや元本償還などを自動化することが可能になります。
スマートコントラクトはいわば「ソースコードで書かれた契約書」です。自動実行されるコントラクトはブロックチェーン上にコードが記録され、誰もがそのコードを確認し検証することが可能です。
弁護士に契約内容のチェック、エンジニアにコントラクトコードのチェックと二重の手間を掛ける必要性はネックなものの、自動実行のため相手に契約を反故にされたり、微妙な条文解釈によるはめ込みを防止したり、契約書を改ざんされたりすることが無くなります。
また利払いを忘れたり、送金額を間違えたりするヒューマンエラーも無くなりますし、そのぶん人件費やシステムコストも削減できるメリットもあります。
さらには、ブロックチェーンはP2Pネットワーク上で稼働するシステムのため、サーバーがダウンして利払いが止まる…というようなこともなく、24時間365日フル稼働してくれる強みもあります。
ブロックチェーンでも法規制は変わらない
2017年~2018年あたりにかけてのICO(独自仮想通貨の発行による新規事業の資金調達行為)ブームにおいて、ブロックチェーンベースの新規サービスが生まれた際によく見られた誤解なのですが…
有価証券に該当する上記のようなスキームは、ブロックチェーンを活用して証券をトークン化したとしても、法規制は何ら変わりませんので要注意です。
「トークンだから証券じゃない」という誤った解釈でプロジェクトが立ち上がり、潰れていったお粗末なものが現実にいくつか存在していました。なお、日本政府は公式に、これに関する見解を明確にしています。
ブロックチェーンはあくまで、少人数私募債の発行や管理を簡単かつ安価に可能にするためのシステムに過ぎません。実態で法規制が判断されるのが原則ですので、ご留意ください。
さいごに
なお、少人数私募債と近い資金調達手段には「クラウドファンディング」や「ソーシャルレンディング(P2Pレンディング)」もあります。これらも同様にブロックチェーンを活用したサービスも登場してきており、関係法規に則って事業が運営されています。
また、上述した「ICO(Initial Coin Offering)」という、新規事業立ち上げに際して独自仮想通貨を開発・販売し資金調達する新たなスキームも登場しました。
企業の資金調達手段が多様化する中、ブロックチェーンはこうした分野においても注目がなされるようになってきています。小口の資金調達を考える際、ブロックチェーンを活用した直接金融スキームも検討してみてはいかがでしょうか。