ブロックチェーンによるサプライチェーン管理の概要と事例を紹介

インターネット以来の発明と呼ぶ人もいるブロックチェーンという技術は、製品の原料から加工、配送、販売そして消費といった一連の流れを表す「サプライチェーン」への応用が進んでいます。

ブロックチェーンはP2Pネットワークで稼働する「分散型取引台帳」であり、ブロックチェーン上に記録されたデータに対して強い耐改ざん性を有することが一つの特徴です。

情報を書き込んだ当人すらその情報を改ざんできず、実際に稼働から10年が経ったビットコインは、今まで一度もそのブロックチェーン上の情報を改ざんされたことはありません。

またブロックチェーン上の情報はP2Pネットワーク上で公開され、あらゆるユーザーが取引情報を確認できるため、一定の透明性を有しています。

こうしたブロックチェーンの強みを活かし、産地偽装や配送情報の改ざんを防いで正確なSCM(サプライチェーンマネジメント)が行えるシステムの研究開発が進んでいます。

 

SCMにおけるブロックチェーン活用の利点

高い耐改ざん性とパブリックに情報が公開される特徴を持つブロックチェーンですが、実際にサプライチェーンマネジメントに利用するにあたって、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。

 

産地偽装や責任逃れの防止

ブロックチェーンに記録された情報は、一度書き込んだら基本的に誰も書き換えることができません。そのため、書き込む情報の正当性さえ確保できれば、誰も改ざんできず嘘偽りのないサプライチェーン情報の管理が可能になります。

これによって、例えば料亭が中国産の松茸を日本産だと偽って提供することや、加工業者がこっそり缶詰のツナの中にラードなどを入れて水増ししてから卸すといった不正行為を防止することができます。

「いつ」「誰が」「どんな状態で」「どれくらいの数量を」「どこに送ったか」を各サプライヤーがブロックチェーン上に記録することで、不正が発生した時にも言い逃れができず、責任の所在を明確化することができます。

 

消費者や各サプライヤーへの情報共有が容易

また、ブロックチェーン上に記録したデータは原則として誰もが確認することが可能です(決められた一部の人のみが閲覧できる「コンソーシアム」「プライベート」チェーンも存在します)。これを活かして、消費者や各サプライヤーが簡単に流通情報を確認することが可能です。

これにより、製品がいまどこに存在しているのかを簡単に把握できたり、流通段階でのトラブル対応を容易にできたりといったメリットが考えられます。

また消費者にとっては、その製品がどんなプロセスを辿ってきたのかが分かるため、安心感や良いブランドイメージが生まれます。例えば代替魚の利用が盛んな回転寿司の業界で導入するお店が出てきたら、ガッツリお客様の信頼を勝ち取れるんじゃないでしょうか。

 

ブロックチェーンへの情報記録プロセス

サプライチェーンマネジメントにおいて、ブロックチェーン上にどういったデータを記録していくのか、流れに沿って例示してみます。

なお、情報記録の正当性を担保するにあたっては、専門の第三者機関によるチェックを設けることが考えられます。この機関がトレーサビリティの信頼性を担保し、かつその仕組みを事業として拡大していくことで、ブロックチェーンによるサプライチェーンマネジメントが現実的なものになるのではないでしょうか。

 

生産時:産地や数量などを記録

まずは製品の原材料について、産地や製造元の情報および数量をブロックチェーン上に記載します。青森県で収穫されたニンニクなら、「〇〇農家から、300kgのニンニクを仕入」という情報を書き込むこととなります。

これが魚なら「〇〇漁港で、〇〇漁業㈱が獲った、200尾1,500kgのブリを、〇〇締めの状態で仕入」と記録する情報を増やしたり、ハードディスクだったら「〇〇電機㈱から、〇〇社の〇〇を、200台、〇〇工場現地で仕入」といった形で仕入先をより明確に表したりすることになるでしょう。

また、その原材料を加工業者などに配送する場合の情報についても記録が必要です。「A運輸にて、300kgのニンニクを、B加工㈱に配送」という感じですね。

 

加工時:入荷時と出荷時の状態、加工プロセスを記録

原材料の加工がある場合は、「入荷時の状態」と、そこから「どのような加工プロセスを行ったかの記録」、そして「出荷時の状態」を記録します。加工プロセスについては、発注段階であらかじめ共有されているマニュアルデータなどを記録すれば良いでしょう※。

※ブロックチェーン上にはファイルサイズの大きいデータを記録することはコスト上難しいため、別途ファイルサーバーにアップロードし、そのファイルのハッシュ値をブロックチェーンに書き込むことで、改ざんを防止する方法を取るのが現在の主流となっています。

また加工場から卸売業者や販売店舗に配送する情報についても、同様に記録が必要です。

 

販売時:商品単位の管理IDと販売記録

販売店では、1商品ごとに個別のIDを付与し(商品管理システムの流用とか)、それぞれレジに通したり、出荷したりした時点を記録することで、最終的なお客様への納品までの責任を明確化します。

また、可能であればポイントカードなどの個人IDも記録することで、クレームを受けた際の情報確認もスムーズに行うことができます。

なお、商品にQRコード付きのタグシールを貼り付け、お客様がそのタグを読み取ることで、その商品の今までの流通経路を確認できる仕組みも開発されています。全ての商品に使うのは現実的ではありませんが、こだわりの高級食材なんかに貼り付けると信頼性が増して良いかもしれませんね。

 

ブロックチェーンのSCM活用事例

ブロックチェーンを使ったサプライチェーンマネジメントの取り組み事例について、簡単に紹介します。

 

Bumble Bee Foods

アメリカの大手水産会社「Bumble Bee Foods」では、キハダマグロのサプライチェーンを管理・記録するためにブロックチェーンを用いたシステムの導入を進めています。ニュース記事は以下▼

404 NOT FOUND | Enjoy Property!
合同会社むすびて

マグロの漁獲時から消費者に製品が行き渡るまで一連の流れをブロックチェーン上に記録し、産地偽装や不法漁獲マグロの出荷を防ぐことができるほか、お客様の安心感を確保することも可能になります。

お店で販売される同社の製品パッケージにはQRコードが備え付けられ、どこでどの団体に漁獲されたどれくらいの大きさのマグロなのか、どのような経路で流通したのか、ということをお客様が簡単に確認できるしくみを開発しているとのことです。

 

SCM特化ブロックチェーン「Ambrosus」

サプライチェーンマネジメントに特化した「Ambrosus」というブロックチェーンサービスも存在します。IoTネットワークとの接続により、各物流の履歴を簡単に記録することができる仕組みを有しています。

専用のセンサーで製品を読み取り、その情報をブロックチェーン上に記録する機能があり、その記録された情報は改ざんされることがなく、透明な安心感のある情報管理が可能になります。

また、サプライチェーン情報の公開範囲を限定することができ、一般的なブロックチェーンのように誰でも確認できる状態にしておくのか、あるいは許可を与えた一部のユーザーのみが確認できる状態にするのかを選択することが可能です。

既に世界中に食品トレーサビリティ等を記録・管理したい団体が活用しており、国連やスイスの業界団体などが様々にAmbrosusを利用しています。

Ambrosusの導入にご関心のある企業様はお問い合わせください。弊社にて導入を支援致します。

 

まとめ

当初はビットコインから生まれ、金融業界での活用が見込まれていたブロックチェーンですが、記録された情報を改ざんされない堅牢なセキュリティを有した仕組みから、サプライチェーンマネジメントなど様々な業界・システムへの活用が研究されています。

製品のサプライチェーンにおいては、店舗による産地偽装や加工業者による水増し加工を防止し、食中毒や欠陥などが発生した時の責任の所在を明確化することが必要です。

記録された情報を改ざんされることがなく、情報の共有も容易なブロックチェーンの仕組みを使うことで、こうしたサプライチェーンマネジメントを最適化することが可能となります。

ご紹介したように、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンマネジメントのシステムは世界中で導入や研究開発が進んでおり、日本においても徐々にその流れが進んできています。

日本でも過去、雪印や船場吉兆、赤福などなど、食品の偽装問題がマスコミに大々的に取り上げられたことが幾度もありました。食への安全意識が高まる昨今において、こうした問題の解決に繋がるシステムの導入は今後広まっていくのではないでしょうか。

 

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