ブロックチェーンによる医療情報管理のメリットとよくある誤解

第三者による情報の改ざんを防ぐ能力が高いブロックチェーンは、電子カルテなどの医療情報を管理する分野にも積極的に活用されています。

しかし、大手企業も積極的に研究を行い様々な情報が発表されている中で、「これ、ちょっと間違っているんじゃない?」なんて情報も散見され、「ブロックチェーンありき」になっている言質も多いなと感じています。

この記事では、電子カルテシステムにブロックチェーンを導入するメリットと、それに当たっての「よくある誤解」について説明をしていきたいと思います。

 

ブロックチェーンによる医療情報管理のメリット

ブロックチェーンはその仕組みから、第三者による情報の改ざんを防ぐことができる「耐改ざん性」や、情報共有のしやすさ、システム設計による仲介・第三者機関の排除が可能といった強みを有しています。

これらの強みが医療情報管理にもたらすメリットについて解説します。

 

医療記録の不正な書き換えを防止できる

ブロックチェーンは暗号化技術をもとに情報をやり取りする分散型の取引台帳です。ブロックチェーン上に記録された情報は書き込んだ本人も含め、後から修正をすることはできません。

またその情報は複数のサーバー(ノード)上に保管され、各ノード上の情報が一定時間ごとに同期され整合性を確かめることで、ノード上の不正な情報の書き換え(ハッキング)を認識し排除する仕組みを有しています。

こうした仕組みにより、ブロックチェーン上に記録された情報は不正に改ざんされることが無くなります。そのため、病院による医療ミスの隠ぺいなどを目論んだ医療情報の改ざんを防止することが可能です※。

そのため、他院から受け取った医療情報を十分に信頼した上で、患者に処方や投薬、手術を行うことができるようになります。

なお、ブロックチェーン上に記録される情報自体の信頼性を担保する仕組みの設計も必要になりますが、これに関しては「情報共有(情報アクセス権限の付与)が簡単」「インセンティブ設計の導入が簡単」といった強みを活かすことで実現が可能です。

通常の電子カルテシステムでも情報の改ざん防止は可能ですが、ブロックチェーンを用いることでさらなる改ざん防止対策を行うことができたり、記録情報の信頼性を担保する仕組みを構築しやすかったりする点にメリットがあると言えるでしょう。

※【参考データ】読売新聞の医療メディア「ヨミドクター」の記事にて、2000年~2014年に発生した22件の医療データ改ざんによる事件の紹介がなされています。

 

ブロックチェーン×医療のよくある誤解

上記のように、ブロックチェーンを電子カルテや処方せんに活用することで、医師および外部からの不正な医療情報改ざんが防げるメリットがあります。

しかし、ブロックチェーンの医療分野への応用についての情報を調べていると、「実際にはそこメリットじゃないんだけどな…」と感じる部分も散見されました。

というわけで、皆さんの誤解がないよう、よく見られた間違いについて指摘していきます。

 

ブロックチェーン上で全データは管理できない

これはよくある話なんですが、「ブロックチェーン上にカルテの情報を保存してしまえば、後から改ざんできないから良いね!」というのは、今のブロックチェーンの仕組み上現実的ではありません。

なぜならブロックチェーンの各ブロックにデータを書き込める容量は数MB程度に過ぎず、満足に保存できないうえ、書き込みに必要な手数料も高額になってしまいます。

ブロックチェーンは元々取引を記録する台帳であるため、画像などそれなりにファイルサイズが大きいデータを保存する用途としては開発されていないためです。

そのため、現状では「データベースサーバーに情報を記録し、そのデータファイルをハッシュ化してブロックチェーンに書き込む」といった手法が取られています。

データベースがハッキングに遭いファイルが改ざんされるとハッシュ値が変わるため、ブロックチェーン上に記録されたハッシュ値と不整合が起き、改ざんが分かるという仕組みです。

このような現状を鑑みると、ブロックチェーンを使ったからといってセキュリティコストを大幅に削減できるかどうかは、検証してみなければ分からないと言えます。サーバーのセキュリティ対策をする必要がありますからね。

 

ゼロダウンタイムや企業倒産リスクは解消できない

上記の理由により、ブロックチェーンの強みと言われている「サーバーがダウンしない」「運営企業が倒産してサービスが消滅する危険がない」というものは、医療情報管理では現状得られないことと考えられます。

この2点の強みはブロックチェーンというよりも、複数のノードが同じ情報を保有し同期する分散型(P2P)ネットワークの強みであるため、患者の医療情報を格納するデータベースサーバーを用意することになると、それらの強みとは無縁になります。

現状でこれらの強みを活かそうと考えた場合、情報を断片化して複数のサーバー上に保管する「分散ストレージ」の利用が選択肢に上がりますが、相応のコストは発生することになります。

ブロックチェーンを活用したからと言って、必ずしもサーバーダウンしない環境の構築や、サービス運営企業の倒産によるサービス終了リスクが担保できるわけではない点は要注意です。

 

改ざんされない≠正しい情報のみが記録される

また、ブロックチェーン上に記録された情報はほぼ改ざんされないからと言っても、安心はできません。上でも軽く触れましたが、「そもそも書き込まれる情報が正しくなければならない」からです。

医師などによって書き込まれる元々の情報が正しいかどうかは、ブロックチェーンは判断してくれません。そのため、医師が最初から不正な情報を書き込むことを防止する仕組みを別途検証する必要があります。

ただ、これに関してはブロックチェーンの「情報共有が容易」「仮想通貨によるインセンティブ設計が容易」「ウォレットを匿名で作成可能」という強みを活かすことができます。

例えば電子カルテ導入に際して、担当医が記録しようとする情報を監査・承認するメンバーのアサインを義務付けたり、不正な情報が記録された際に内部通報できる仕組み+不正発覚したら報酬を受け取れる仕組みを構築したり、というものが考えられます。

まあ、これを嫌煙して導入に踏み切らない病院もあるかも知れませんが…。とにかく、このような仕組みを構築することで、正しい医療情報が守られるようにする必要があります。

 

マイニングや送金手数料はネックにならない

「ブロックチェーンを運用するにはマイニングしなきゃダメだよね?」と考える方は一定数いらっしゃるようですが、実はマイニングが必要かどうかはブロックチェーンによって変わります。

また、最もビジネスユースで導入されているであろうイーサリアムのブロックチェーンを活用する場合は、必ずしも自分達でマイニングの手配をする必要はなく、既に世界各地にマイナーが存在するため、お任せすることができます。

そのため、マイニング環境の用意をしなければブロックチェーンは使えないといったようなことは無く、その点は特に気にせずにいた方がよろしいかと思います。

また、ブロックチェーン上に情報を書き込む際には、毎回仮想通貨での手数料支払いが必要になります。…が、最近ではその支払いを運営会社など特定のウォレットが負担するシステムも完成しています。

そのため、ブロックチェーンを扱う人が一人ひとりETHなどの仮想通貨をストックしておく必要はなく、管理者一人が仮想通貨をウォレットに入れておけば良いだけなので、これに関しても手間はいらなくなります。

 

まとめ

ブロックチェーンを活用した医療情報管理は、従来の電子カルテ以上に不正な改ざんを防止できる可能性が高く、また誤った情報の記録も防げる可能性が高くなるというメリットが期待されます。

一方、ブロックチェーンはまだ発展途上の技術ということもあり、その他の要素は従来の電子カルテサービスに比べて大きなアドバンテージがあるとは必ずしも言えないところがあります。

しかし、ブロックチェーンを活用した新たな電子カルテサービスも実際に生まれてきており、また大手企業も研究開発を進めている最中のため、今後はブロックチェーンがスタンダード化する可能性もあるかもしれません。

医療データは自分の健康や生命を守るのに大事なもの。そう考えると、誤った情報や病院の都合の良いように改ざんされたデータを排除できることは、一つの安心に繋がっていくのではないでしょうか?

 

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