民泊を開業するにあたっては、どれだけ良い立地を押さえられるかがカギとなります。後から変更がきかない一方で、立地ごとに宿泊ニーズは大きく変わるため収支に強く影響を及ぼすからです。
ここでは民泊を開業する時のエリア選定の方法と、候補物件の立地がイケるかどうかを確認する方法について解説していきます。また都市ごとの特徴についても簡単に解説しますので、投資エリアが大体決まっているという方もご参考にして頂ければ幸いです。
エリアごとの特徴
民泊を開業するエリアごとにどのような特徴があるのか、地域の特性を具体的な都市別に紹介していきます。
東京や大阪などの大都市
大都市は民泊をはじめとした宿泊事業を行うにあたって最も定番と言えるエリアです。特に東京と大阪は宿泊需要が非常に高く、世界中から宿泊客が訪れます。以下では主要都市別に特徴を見ていきます。
東京の特徴
東京は日本の首都であり最も栄えている場所で、外国人の訪問数も圧倒的です。観光客だけではなくビジネス客も非常に多く、23区内であればかなり広い範囲で宿泊需要を期待できます。ただし家賃水準も日本の中では最も高いため、物件選びには慎重にならなければ安定的に利益を出すのは難しいとも言えます。
東京で民泊をする場合、いくつかの主要エリアの特徴も知っておいた方がいいでしょう。例えば以下のような人気エリアがあります。
- 新宿:世界でも有数の繁華街である新宿駅周辺は、国内外から安定した宿泊需要があります。 中国人、韓国人、欧米系など人種国籍を問わず非常に高い宿泊需要があり、客室稼働率も高い水準にあります。新宿駅周辺以外にも代々木駅、新大久保駅など周辺でも高い需要を誇ります。
- 渋谷:渋谷は世界的に有名な繁華街の一つで、 スクランブル交差点の風景は日本を代表する風景の一つとして世界的にも知られています。家賃はかなり高いのですが、こちらも非常に高い宿泊需要を誇り、特に若年層に人気があります。渋谷駅を離れると高級住宅街が広がるため、ラグジュアリーな大箱の民泊にも向いています。
- 浅草:東京の最も有名な観光地のひとつといえば浅草です。新型コロナウイルス流行前は、雷門や浅草寺と言った観光スポットの周辺には常に多くの外国人観光客の姿が見え、街歩きを楽しんでいました。 浅草駅周辺だけではなく、そこへのアクセスが良い東武・京成沿線にも主に外国人向けの民泊やホテルが多数広がっており、国内外の観光客を狙うのであれば浅草も定番の街であると言えます。
- 上野:上野は浅草と合わせて観光客が訪れる山手線のターミナルで、スカイライナーで成田空港から直接アクセスできるのが強みです。アメ横や上野公園、数多くの美術館や博物館などが観光の目玉です。また都心のオフィス街へのアクセスも良く、東京有数の繁華街でもあるため観光客以外の需要も高いエリアです。
- 銀座:日本で最も有名な買い物スポットの一つが銀座です。高級ブティックが数多く立ち並び、観光客や買い物客、ビジネス客で常に賑わっています。外国人観光客にも人気のエリアで、以前は「爆買い」の舞台としても有名だったほか、東銀座の歌舞伎座や築地市場など、周辺エリアも強い人気があります。
上記のエリアはいずれも家賃水準は高めですが、相応に高い宿泊需要が期待できます。東京23区はその他の地域でも安定した宿泊需要があり、郊外でも十分に民泊として戦える立地であると言えます。
都心部では高い家賃を支払いつつも、大きな売上をあげることで規模の大きな事業とする。一方、郊外は家賃と収益性のバランスの良さを活かし、比較的安定した収益を狙うように作り込むと良いでしょう。
ただし、市区町村ごとに旅館業法・住宅宿泊事業法の規定が異なり、開業許可取得の難易度が大きく変わるため、事前調査が欠かせない点は注意すべきです。特に千代田区・中央区・荒川区などではスタッフの常駐が許可(届出)要件に盛り込まれているなど厳しく、開業のチャンスがどうしても少なくなってしまうので注意が必要です。
大阪の特徴
大阪は東京に次いで高い宿泊需要があり、客室稼働率もトップクラスに高い数値を誇っています(宿泊旅行統計調査:2018年1月~2019年12月)。
大阪駅・梅田駅を中心とした繁華街「キタ」はビジネス客や買い物客で常に賑わっています。また難波や心斎橋、道頓堀などがある「ミナミ」は、大阪観光の定番ともいえるエリアで、非常に賑わっている割には家賃も比較的安く、民泊含め多数の宿泊施設が立地しています。そのほか、天王寺や鶴橋、京橋といったターミナル駅での宿泊需要が高い傾向にあると言えます。
大阪市では営業日数の制限がない(通常、住宅宿泊事業法は年間180日以内)特区民泊制度を導入しており、その影響で民泊施設は数多くあります。そのため他の地域に比べて競争が激しく、物件の独自性を出すことが大切と言えます。一方で家賃は東京に比べると安く、都心部でも23区郊外並みです。そのためうまく物件を作り込むことができれば、かなり高い収益性も期待できるでしょう。
京都の特徴
日本で最も有名な観光地といえば京都でしょう。日本人にも有名ですが、外国人観光客が日本観光で真っ先に思い浮かぶのも京都というほどの知名度があります。
京都の中心は「洛中(らくちゅう)」と呼ばれるエリアで、 ここには京都駅のほか地下鉄や阪急線などが乗り入れ、四条通などの主要駅を中心にオフィスや商業施設、宿泊施設が集中します。また洛中全域とその周辺(洛外)には古い京町家が点在しており、これを改装した古民家宿が数多く営業しているのも特徴的です。
京都は国内外の観光客に非常に高い人気を誇りますが、民泊などの宿泊施設が増えすぎてしまった関係で、新たに民泊を開業する際には様々なハードルがあります。特に現地へ徒歩10分以内に駆けつけができる体制を備えなければならないという、いわゆる「駆けつけ条例」があるため、この条件を満たすために高い費用を支払わなければならないケースもあります(ちなみに東京23区内における旅館業許可では同様かそれ以上の要件を求める自治体が多くを占めます)。
また競合物件も多く、かつホテルだけではなく民泊領域にまで大企業が進出するような街でもあるため、民泊をやるには決して難易度が低いわけではないエリアだと言えます。魅力的な内装・外観に加え、どれだけゲストに特別な体験を提供できるかというUX設計がカギになるでしょう。
名古屋の特徴
名古屋は東京や大阪といった主要大都市に比べると比較的外国人観光客が少ない傾向にあり、同様日本人観光客についても比較的少ない、ビジネスに特化した都市であることが特徴です。一方で飛騨高山や伊勢神宮などの近隣観光地に行く際のハブとなる都市でもあるため、地域を周遊する観光客を対象に民泊を提供するという選択肢は考えられます。
名古屋の中心地は名古屋駅と、そこから東にある最大の繁華街である栄の二つです。栄にあるオアシス21は多くの外国人観光客から注目されており、都市型観光の一つのベンチマークとなっています。他にも名古屋城、熱田神宮などの観光スポットがあり、また味噌カツなど独自の食文化も豊かなため、ポテンシャルは大きい街です。
都心部の賃料は大阪都心部と同等かそれより少々高い程度で、東京に比べれば投資はしやすいと言えます。一方で、住居専用地域では住宅宿泊事業法による営業に大きく制限がかけられることに加え、日本人には観光地として認知されていない影響もあるためか、他の大都市に比べると競合は少ない傾向にあります。
福岡の特徴
福岡は主要エリアが博多と天神に分かれており、両駅の周辺に商業施設やホテル、民泊が集まります。福岡の特徴は韓国の釜山とフェリーで繋がっていて、外国人観光客の中でも韓国人の割合が半数程度を占めるところです(訪日外国人消費動向調査(2019年))。そのため、特に韓国人を対象にしたマーケティングが有効になると言えます。
一方で、韓国人観光客は気軽に福岡へ行けるため、滞在日数が短く、宿泊費も消費額も少ない傾向にあります。最も宿泊費を取りやすいのは中国人観光客ですが、日韓のゲストとどちらを狙うのか、価格設定を戦略的に考える必要はあるでしょう。
福岡は都市がコンパクトで、都心部でも家賃が安いため、民泊も博多~天神間に集中しており競合も多くなります。開業のしやすさはメリットであると同時にデメリットでもあり、また韓国人への依存度が高いというリスクもあるため、この点を考慮しながら開業を検討しましょう。
札幌の特徴
札幌は大都市かつリゾート地である北海道の一大拠点として多くの観光客を集める都市です。民泊は中心地であるさっぽろ駅や大通、すすきのといったエリアに集中しており、こちらも家賃の安さゆえに物件数も多く競争の激しい都市です。
注意点として冬は相当な雪が積もるため、戸建民泊を考える際は雪対策や水道管の凍結対策を考えることが必須になります。また、雪国特有の季節要因に売上が大きく左右される傾向があり、夏と2月(札幌ゆきまつり開催のため)が繁忙期、春秋が閑散期と明確に分かれるため、大都市ながらリゾート地に近い傾向が強いと言えます。
リゾート地、観光地
リゾート地での民泊は、コロナ禍においては大都市での民泊よりも安定して収益を出せる傾向にあります。シーズンごとに繁閑の波があったり、大都市よりも物件を見つけることが難しかったり、運営代行業者や清掃業者を探すことが難しかったりするため、大都市での民泊に比べて少々難易度は上がります。一方で競合はホテル・旅館が多いため比較的差別化しやすく、高単価の民泊を作って効率的に収益をあげることも狙いやすいのが特徴です。
リゾート地は場所によって観光客の傾向が大きく異なります。例えば箱根は、関東近郊の日本人はもちろん中国人観光客にも注目されていますが、白馬やニセコなどのスキーリゾートでは、オーストラリア人や雪を見たいと考える東南アジアの観光客に人気を博しています。またスキーリゾート、高原リゾート、ビーチリゾートなど、その土地の特性によってシーズンごとの集客傾向も大きく変わります。そのためエリアごとのマクロ調査が必須になる点は覚えておきましょう。
また、リゾート地や大都市に当てはまらない観光地で民泊を開業するという手段もあります。例えば鎌倉、伊勢、奈良、倉敷などがこれに該当すると言えます。こちらも街によって特性が異なるため、マクロ調査が欠かせません。一方で街の特色を活かした民泊をうまく作れれば、高い収益性も狙える可能性があります。
田舎
観光地ではない田舎で民泊を営む事業者も増えています。特に大都市近郊の農山漁村で、昔ながらの風景や手付かずの自然、地元でとれた野菜や魚などの食材を売りにした宿泊施設は少しずつ注目されてきており、地方創生の観点からも各自治体がアンテナを張っている状況です。
田舎では近隣住民とトラブルになる可能性が高いため、地元で開業するか、地縁のない場所であれば「よそ者」にならないように事前に地域住民と交流を重ねるなど、綿密なコミュニケーションが前提となります。ムラ社会特有の面倒はありますが、うまく乗り越えて住民を味方にできれば、彼らもゲストに日本ならではの体験を提供してくれる最高のコンテンツになってくれます。
また、元々宿泊施設がほとんど無い地域で開業する際にはどれぐらい集客できるかが分からないため、心理的なハードルを乗り越えなくてはならない点、OTAに掲載する以外の集客戦略を考えなければならない点も難易度の高い部分です。しかし戸建でも家賃や取得費が非常に安いぶん、地域の魅力や民泊自体のストーリーを上手く訴求し、オンリーワンの宿を作ることで高収益を狙うことも可能です。
また地域の農業や漁業を体験できる「農林漁業体験民宿」と言う制度があり、この制度を利用することで民泊開業のハードルとなっている消防法や建築基準法などの規制を大幅に緩和した上で開業することが可能です。外国人や都会人には日本の農業や漁業は新鮮に映るほか、地元の新鮮な食材を味わいつつ地元の人と交流できる機会はとても貴重で大きな価値があります。地元の人々と協調してこうしたサービスを提供できれば、大きなバリューとなりえます。
自宅もしくは自宅近隣のエリア
また、民泊のエリア選定手段の一つとして、自宅の空き部屋を利用する、あるいは自宅に近い場所を選ぶという手もあります。自宅に近ければ自身での管理がしやすいほか、土地勘があるため、観光客にどのような強みをアピールできるのか、アクセスの良さはどの程度かといった要素を高い精度で判別できる点がメリットになります。
また旅館業や住宅宿泊事業法では、緊急時に所定の時間以内に駆けつけができる体制を整えておくことが義務化されている自治体がほとんどです。特に旅館業においては、徒歩10分圏内に拠点を構えておく必要があるとする自治体も複数あるため(東京都江東区や京都市など)、自宅から徒歩10分圏内で民泊用物件を見つけられれば、この高いハードルを乗り越えることができます。
ただし郊外の住宅街などではそもそも民泊などの宿泊業に向かない立地であるケースも多いため、無人型は難しいと言えます。自宅にゲストを泊める形で、旅行客が誰も気づいていない街の魅力とホストとの交流による体験を提供するスタイルならともかく、無人型民泊は東京や大阪などの大都市の都心部に近いエリア、もしくは観光地に住んでいる方に有効な手段と言えます。
物件ごとの立地評価をする方法
これまでエリアごとの特徴について解説してきましたが、以下では候補物件を見つけた際に、ミクロの観点でその物件の立地の良し悪しを判断する方法を解説していきます。
交通アクセス
まずはその物件周辺の交通アクセスが良いかどうかを確認しましょう。具体的には最寄駅まで徒歩何分で行けるのか、運行本数は十分にあるか、主要な繁華街や観光スポットにはどれくらいの時間がかかるのか、また空港からはアクセスしやすいかどうか、といった点を確認しましょう。
繁華性と観光ニーズ
大都市で民泊を行う場合、基本的には新宿や難波といった繁華街の方が郊外の住宅街よりも宿泊需要は高いと言えます。外国での買い物や食事、街歩きは海外旅行における主な楽しみの一つであり、それを楽しめる街であるほど集客にはプラスになります。
また場所によって観光滞在ニーズには差があるため、現地を見て歩いたり、自治体ごとの観光客数を調べたりすることで判断すると良いでしょう。日本人と外国人とでは土地感が全く異なるため、日本人なら泊まりたいと思う場所でも外国人にはウケが悪いということもあるので、データと現地調査両面からニーズを推定することが肝要です。
国内外からの観光入込客数・宿泊者数
上記で触れた観光客数については、各自治体ごとの国内・国外観光客数をまとめたPDFデータがWeb上に数多く公開されています。これらを確認し、候補物件の所在する市区町村がどれだけの観光客数を有しているのかを確認することも大切です。 観光客数が多ければそれだけ需要は高いと推定できます。また宿泊者数や宿泊施設の稼働率といったデータも公開されているため、併せて確認しましょう。
街にどんなウリがあるか
物件のある街にどのような売りがあり、民泊の魅力としてアピールできるかという観点で街を見ることも欠かせません。例えば多くの人が買い物に訪れる繁華街にあったり、観光地にあったり、あるいは多くの人が羨む高級住宅地にあったり、美しい自然を楽しめる立地であったりすれば武器になります。
主に利便性の高さや遊べる場所の多さ、交通アクセスの良さ、独特の文化・歴史、郷土料理、大自然や観光スポットなどが地域特有の魅力となりえます。これらを把握したうえで上手に訴求できれば、魅力的な民泊を作ることができるでしょう。
物件の住環境
候補物件の日当たりや風通しが良いかどうか、騒音や臭いは無いかなど、住みやすさや滞在しやすさといった観点からも物件を確認することが大切です。特に外国人観光客の場合は数日間滞在することがほとんどであるため、「過ごしていて心地よい空間であるかどうか」という観点はとても重要になります。
車を前提とする場合、駐車場や道路の使いやすさ
特にリゾート地や田舎では公共交通が使えない場所も多くあります。候補物件がそのエリアにある場合、駐車場や前面道路は車の取り扱いがしやすいかどうかを考えることも大切です。もし狭い道や駐車場しかなく、ゲストが駐車に失敗して車をぶつけてしまった時には、物件の修理が必要になる場合もあるほか、ゲストから悪い評価をつけられてしまう可能性も上がります。
また、最寄りのインターチェンジまでの距離や、渋滞しやすい時間帯なども把握しておきましょう。特に外国人観光客の場合は慣れない日本での運転のため、分かりやすい道や走りやすい道を通って来れるかどうかを意識するとプラスになります。日本人についても、夏休みなどの長期休暇には運転慣れしていない旅行客の宿泊も想定されるため、配慮するに越したことはないでしょう。
まとめ
民泊はエリア選定がとても大切です。立地は後から変えることができず、また場所によって集客の傾向や取るべき戦略、コンセプトも大きく変わってくるためです。加えて家賃も大きく変わることから、収支にも強い影響を及ぼします。
まずはどのエリアで民泊を開業するかを決める必要がありますが、それにはまずエリアごとの特性を押さえておく必要があります。駅や自治体の情報を調べたり、観光客数や宿泊客数を調べたり、実際に街を歩いてみたりしながら、ニーズの高さを考えましょう。また自治体ごとに旅館業法・住宅宿泊事業法の必要要件が異なるため、これも事前に押さえておくことも必要です。開業マニュアルは各自治体のWebサイトに公開されています。
そして候補物件が見つかった場合には、観光客数などのマクロデータと併せて周辺環境についても精査を行い、需要が期待できるかどうかをじっくり判断することが重要です。内覧時には開業許可を取得できるかどうかに加え、立地についてもくまなく確認することが必要なのです。
民泊の立地調査に関して押さえておくべきポイントは少なくありませんが、これを抜かりなく行うことで失敗する確率は大きく減らせるでしょう。焦らず根気強くリサーチを重ねてみてください。