宿泊施設の中でも、最も供給が多く、宿泊者も多いのがホテルです。一泊数千円程度の安価なビジネスホテル・バジェットホテルから、数十万円以上するラグジュアリーホテルまで多種多様な物件が存在し、宿泊業界の代表たる存在です。
民泊もホテルと同じく宿泊業界に位置する事業ですが、個人オーナーや中小規模のオーナーの資本力では、ホテルのようなサービスや設備を整えることは非現実的であるため、「なんとか戦いを避けること」が民泊運営の鉄則となっています。
今回は、ホテルとの競争をいかに避けられるかということをテーマに、それを簡単に実現できるコンセプトメイキングの手段として「二項対立」を解説します。
二項対立コンセプトメイキングとは
ホテルには収容人数や設備など、いくつかの特徴的な共通項があります。この共通項を一つずつ洗い出し、それと反対の要素を抜き出していく。その情報をもとに民泊のコンセプトを決めていくことを「二項対立コンセプトメイキング」と名付けます。
これを行うことでホテルとの競争を避けることが簡単になり、「民泊に泊まりたい人」もしくは「民泊に泊まることがニーズに合うと気付いた人」からの予約を受け入れられるようになるのです。以下、具体的な二項対立のパターンを解説します。
客室の収容人数
ホテルの客室収容人数は少なく、一人か二人の客室が非常に多くを占めます。メゾネットなどの大箱でも四人収容とする施設もあり、一つの客室に多くの宿泊客が泊まるということは基本的にはありません。
対して民泊では、ファミリーマンションや戸建住宅を一組限定で貸すケースが多く、その場合は5人以上が一つの客室にまとめて泊まれます(部屋自体は分かれることが普通ですが、施設全体を一つの客室とみなします)。弊社の民泊物件は、執筆時点では全て10名前後の収容人数なので、大人数で宿泊されるゲストが多くいらっしゃいます。
大人数で宿泊するゲストは、大学生など友達関係での旅行、二世帯以上の家族、ビジネス合宿団体といった層です。これらのゲストがホテルを予約する際には、複数の客室を取って、それぞれ2,3人程度で宿泊することになります。しかし一棟貸しの民泊に全員で泊まれば、より密なコミュニケーションが可能になるため、支持を集められるのです。
スタッフの有無
ホテルには多数のスタッフが存在し、チェックインや清掃など様々な面でサービスを提供してくれます。一方、民泊は無人運営が多く、最初から最後までゲストがホストやスタッフと一切対面しないケースも一般的です。
ゲストがスタッフと対面しないことによるメリットとして、感染症リスクを軽減できるという心理的・身体的な安全性を確保できることや、スタッフに気兼ねなく自由にくつろげること、手続きや会話の煩わしさがないことが挙げられます。そのため、サービス内容がホテルに比べて充実していなくても、無人施設のほうが嬉しいというゲストも一定数いるのです。
食事の有無
ホテルでは朝食付きプランを用意している施設が多くあります。また夕食やルームサービスを提供するホテルもあるほか、ホテル内にいくつかレストランを抱えているホテルも数多く存在します。食事も含めてホテルのサービスの一環と捉えられるため、ホテルに泊まる楽しみの一つとなっています。
一方、無人施設の多い民泊では、料理を一切提供しない素泊まりの施設が一般的です。そのため物件周辺のレストランなどを案内し、そちらで食事をとってもらうことになります。
素泊まりしか選択肢がないのは一見デメリットのように思えますが、そもそも素泊まりプランを予約してくれるゲストは食事を施設内ですることを求めていないため、周辺のこだわりのお店や、「口コミサイトでは分からないけど、地元の人に人気なお店」を多数紹介してあげることが価値になります。
宿の世界観か、街の世界観か
民泊の先駆けとなったAirbnbが提唱するコンセプトが「暮らすように旅する」です。従来の観光や出張を目的とした旅ではなく、バックパッカーのように、その土地の伝統や文化、住民の暮らしに触れ、まるで移住したかのように滞在することが旅の醍醐味とする考え方です。
既存の民家を利用する民泊は、まさしくその土地の暮らしに触れられるものです。外国人が東京の住宅地で一週間滞在したら、京都のような古い家が立ち並ぶ景観や、侍・忍者などの独特な日本文化は、日常的なものではないということが分かるでしょう。食事についても寿司やラーメンだけではなく、うどん、お好み焼き、焼き魚などの庶民的な日本食に触れる機会が得られるはずです。
一方、ホテルは西洋文化がルーツにあり、かつ施設内でその世界観が完結することから、暮らすように旅するというコンセプトとは異なります。ホテルそのものの魅力で泊まってもらうのか、文化体験の一環として民泊に魅力を感じてもらうか。ユーザーの認識が大きく変わるポイントです。
ゲストとの距離感
民泊ではスタッフが不在でも、例えばAirbnbではホストのプロフィールが公開されており、チャット機能でゲストと濃いコミュニケーションを取ることが可能です。ホテルのようにスタッフと直接会話というわけではなく、質問や必要事項の連絡のみにとどまりますが、フレンドリーに接することができるため、地元の案内なども気軽にしやすくなります。
また、ホテルと違って厳密なマニュアルがない施設が一般的なので、柔軟な対応を民泊の魅力として考えるゲストも中には存在します。礼儀正しくかしこまったホテルのような接客ではなく、あえて失礼にならない範囲でカジュアルなコミュニケーションをとった方が良い可能性もあります。
靴を脱ぐか脱がないか
「ホテルは西洋文化」ということに関連して、日本においては「靴を脱ぐか・脱がないか」も重要なポイントであると考えます。
ほとんどのホテルでは、客室内でも靴を履いたまま生活します(日本ではスリッパに履き替えることが一般的)。座る時は椅子やベッドに。荷物はクローゼットなどに収納します。外国では家でも靴を履いたまま生活する人々が多いため、違和感なく利用できるでしょう。
しかし日本人は、家では靴を脱いで生活します。多くの外国人には戸惑うポイントですが、清潔なので床に座ったり荷物を置いたりできるほか、畳の部屋であればそのまま寝っ転がることも可能です。もちろん、ハイハイする赤ちゃんのことを考えても安心だと言えます。
民泊では「建物内では靴を脱いで下さい」という案内とともに、床で暮らすことがいかに快適かを伝えてみるのも外国人に対してはアピールポイントになるのではないでしょうか。
まとめ
上記のような二項対立を用いることで、民泊とホテルの差別化を図りやすくなります。ここで挙げたのは主な要素ですが、その他にも二項対立で比較できるポイントは複数あるため、探してみると良いでしょう。
また同様に、旅館や民宿、グランピングなどの施設と民泊を比較することも可能です。民泊を始めようとする地域で競合になり得る施設がどこなのかを調べたうえで、積極的に活用してみてください。