ブロックチェーンは非効率な保険業界をどうアップデートするのか

生命保険や火災保険などなど、私たちの生活には欠かせない保険。いざという時のリスクを補償してくれる保険をうまく活用することで、安定した暮らしがしやすくなります。

ですが実際に保険に加入してみると、手続きがやたらと面倒くさかったり、月々の掛金がそれなりの負担になってしまったり、そもそもルールが分かりにくくて途方に暮れたり…といった問題に直面することになります。

これは、保険業界が昔からの非効率なシステムに捉われていることが大きな要因の一つとして挙げられます。この現状を打破するテクノロジーとして、いまブロックチェーンが大きく注目されています。

 

保険は「電話と紙ベース」が現状

多くの保険はオンラインで申し込むことが可能ですが、オンライン上で申込が完結することはほとんどありません。

一度Web上で申込リクエストを行ったら、今度は入力した住所宛に加入依頼書が届き、手書きで記入・押印して郵送し手続き完了を待つ…といったプロセスを踏むことが一般的です。

また、先程も述べた通り、保険のルールは複雑で非常に分かりづらいものとなっています。しかし、質問をしようと保険会社に電話を掛けてもなかなか繋がらず、何分も待たされることになります。

無事保険に加入できたとしてもこうした問題は変わりません。保険金の申請も基本的には「電話と紙」で行うため、保険加入者にとっても保険会社にとっても非効率な仕組みになっています。

私も先日、家が強風で破損したので火災保険の申請手続きを行ったのですが、保険会社への電話で5分待ち、さらに請求担当者からの折り返し電話を待ち、話を終えたところで「申請書類を郵送します」という形で終了したので、あまりの非効率さにあぜんとしました。

これほどストレスの溜まる非効率な手続き方法が、いまだに保険業界ではまかり通っています。さらに、こういうアナログな手法を取っていることで業務のたらい回しや人的なミスも発生してしまうため、改善が強く待たれるところです。

 

ブロックチェーンが保険業務を効率化

こうした保険業界のアナログで非効率な仕組みを効率的なデジタルベースに変えるツールとして、いまブロックチェーンが注目を集めています。

保険業界には厳重なセキュリティが求められるため、それが一因(言い訳?)となり現行の業務フローをなかなか変えられずにいました。しかし、ブロックチェーンなら安全な情報の記録と送受信が可能になるため、簡単かつ低コストに効率的なシステムの構築が可能と言われています。

電話と紙による非効率な手続きを経ず、オンライン上で数分間で保険加入や申請手続きが完了するようになるのに、ブロックチェーンが果たす役割は大きいのです。

ブロックチェーンがそれを実現できれば、保険会社も負担は大きく下がります。大量の社員を雇わずとも業務が回るようになるため固定費が下がり、保険料も安くなるでしょう。双方にとっていいことずくめです。

以下でブロックチェーンを保険に活用するメリットを具体的に掘り下げていきます。

 

保険金詐欺の防止

保険金の不正な受け取り、いわゆる「保険金詐欺」は保険会社を大きく悩ませています。アメリカの保険業界では、2011年~2015年において毎年約340億ドルもの保険金詐欺による損害が発生したとされています。

もちろん、大手保険会社も保険金詐欺対策は行っています。例えば、業務フローの改善はさることながら、不正行為の検出のためにビッグデータを用いて、今までの取引から不正行為のパターンを認識するような取り組みが進んでいます。

しかし、それらのデータは個人情報を含んだ機密情報となるため、開示できない情報の存在によって事実とは乖離してしまうケースがあり、必ずしも正確な保険金詐欺の探知に繋がるとは言えない問題点があります。

そこで、ブロックチェーンは保険金申請の正当性を確認するプロセスを安全にデジタル化できることから、将来的な保険金詐欺の発見と防止に活用が期待されているのです。

例えば、住宅が地震や地震に起因する災害(津波や火災など)によって壊れるリスクを保障する地震保険では、保険金の申請が一つのタイミングに大量に押し寄せてくることから、保険会社は一つひとつの申請内容を正確に確認することが困難です。

ですが例えば、衛星画像から自動で被害があったかどうかを検証するAIに対し、申請対象の物件の所在地を自動的に共有して、被災したかどうかを大まかに自動検証することも考えられるようになります。

ブロックチェーンを使えば、個人情報を暗号化されたままAIに送信することができるため、安全なデータの受け渡しが簡単です。

こうした保険金申請の検証フローをデジタル化し自動化することで、人力よりも効率的で精度の高い保険金詐欺検知の仕組みを構築できるでしょう。

また、ブロックチェーンで保険金詐欺を働こうとした人物のブラックリストを作れば、改ざんや情報の削除を防ぐことができ、かつ保険会社相互の情報共有や自動的な加入申込の排除も簡単になるため、この点でも詐欺防止効果が期待できます。

 

自動車事故による保険手続きの自動化

損害保険の申請でも最も身近なものの一つは、自動車事故による損害の補償でしょう。従来は事故が発生した際に申請者が保険会社へ連絡を行い、担当者が相手方とも連絡を取った上で相互に調整、補償内容を決める…といったアナログなものです。

これは保険会社側の負担が非常に大きく、また両申請者も時間がかかったり人的な判断になったりすることで、どうしても不安が募ってしまいます。余談ですが、損保に勤める友人によると「自動車事故の対応だけは二度とやりたくない」らしいです…。

そこでブロックチェーンを活用し、ドライブレコーダーあるいは自動車自体と連携を行うことで、自動車事故の保険金申請プロセスの多くを自動化することが期待できます。

両申請者は、事故発生時点の動画データを保険会社に共有し、担当者がそれを確認することでより正確な判断が可能になります。そして過失割合を算出すれば、後はスマートコントラクトにより自動で保険金の計算・支払いができます。

現在、モノがインターネットに繋がるIoTでは「セキュリティをどう確保するか」が争点となっていますが、これにもブロックチェーンを活用しデータの送受信を暗号化することで、高いセキュリティを確保できる期待がなされています。

そのため、ブロックチェーンを活用することで、セキュリティに気を遣う保険申請手続きにおいても、このようなIoTと絡めた自動かつ透明度の高いプロセスの構築が現実的になるのです。

 

複雑な海上保険の効率化

貿易取引などにおいて使われる海運では、荷物の損失リスクなどを担保するための海上保険(貨物保険・船舶保険)に加入する必要性があります。

海上保険は保険料の設定プロセスが複雑で、加入企業側も保険会社側も大きな負担があります。しかし、リスクを自動的に計算・算出し、ブロックチェーンによって保険料の支払いを自動化することで、貿易業務の効率化を図ることができます。

例えば、保険対象の貨物船の現在地などをデータ管理し、気象条件や地域の危険度などに応じて保険料率が変動するなどの仕組みを作ります。その記録に基づき、ブロックチェーンによって保険金決済を自動化する、といったシステムの開発が進んでいます。

戦争地域や海賊の多い海域、南極付近などの気象が悪い地域などでは、特に海上保険の重要性は高いと見られます。こうした中で、ブロックチェーンを使った海上保険や物流・貿易業務の効率化は、大きく注目されているトピックのうちの一つです。

 

医療保険の効率化

医療データは個人情報を含む機密性が高い情報であり、かつ各医療機関によってデータ管理の仕方が異なるといった問題点もあることから、医療データの管理はかなり非効率な状況にあります。

そのため、患者の医療情報を各病院や薬局に共有するには手間がかかり、また人為的な記録ミスなども生じます。それにより医療保険の計算についても支障が生じる状態となっています。

こうした状況を、ブロックチェーンを活用した安全性の高い共通医療管理システムの構築によって解決していくという動きも始まっています。

ブロックチェーン上に患者の医療データを更新した履歴を記録しておくことで、改ざんや情報の削除を防げる仕組みを簡単かつ安価に構築することができます。また、情報の共有も簡単なので、病院側の負担も軽くなり、また患者側から医療データの受け渡しを許可することも可能になります。

従来の電子カルテでは、個人情報の問題もあり統一されたデータ管理規格にならず、それゆえにメリットが限定的になっていました。しかしブロックチェーンを活用すれば暗号化された状態でデータの管理・受け渡しが容易になるため、統一規格の導入がしやすくなる期待があります。

日本など世界各国で医療費負担の重さが叫ばれる中、こうした医療データの効率化および医療保険の効率化は、今後に対応していくための必要な要素となるのではないでしょうか?

 

面倒な再保険手続きも簡単に

保険会社による大きな保険金支払いの一部を、他の保険会社に責任を負ってもらう保険が「再保険」です。この再保険により、保険会社は多額の保険金支払いに対する経営リスクを保全し、持続的な経営が可能となっています。

しかし、この再保険は「保険にかける保険」、すなわち「リスクヘッジに対するリスクヘッジ」であることから、保険料の計算など手続きが非常に煩雑です。また、通常再保険は複数の会社と契約することになるため、複数当事者との情報共有も必要になります。

そこでブロックチェーンを活用し、保険会社と再保険会社との情報の流れを合理化することが期待されています。ブロックチェーンの台帳に書き込まれた情報は共有が容易かつ、自社・他社による改ざんを防げることから、再保険にも適しています。

保険会社と各再保険会社とで、同時にリスク計算などの手続きを行い保険料を決めることができるため、保険会社にとっては各社個別に調整を行う手間が削減できます。

もちろん再保険会社も保険会社に対して、スマートコントラクトを用いて保険金支払いの自動化が可能です。これにより再保険料も安くなり、ひいては保険会社がエンドユーザーに販売する保険の料金も安くなるでしょう。

 

まとめ

上記で紹介した以外にも、ブロックチェーンが保険業界をアップデートできる可能性はまだ存在しています。例えば航空機の遅れを補償する保険、買物や旅行に対する保険、リスク算定から保険商品の開発、販売・契約まで全てを自動化する仕組みなどが考えられます。

ブロックチェーンは、記録された情報の改ざんや削除を防ぐことができ、また暗号化された状態でのデータ送受信を可能にすることから、セキュリティの高い情報管理とデータ共有が容易になるという強みがあります。

これにより、従来セキュリティの懸念によりアナログから脱せていなかった保険業務をデジタル化しやすくなり、結果として様々な保険業務を効率化することが可能になるのです。

保険会社も人件費や再保険料など様々なコストの削減をすることができ、エンドユーザーもより安い保険料や簡単な保険申請手続きを享受することができるようになります。

まだブロックチェーンを活用した保険業務の効率化は研究段階ではありますが、世界中で注目され精力的に開発が進んでいます。日本においても保険の仕組みがうまくアップデートされることに期待です。

 

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